(12)浮腫
浮腫(むくみ)は、中医学では水腫といいます。主に、水の代謝に関わる『肺』『脾』『腎』の3つの臓器のはたらきを正常化させることにより治療を行っていきます。西洋医学的に考えると心臓、肝臓、腎臓が関連することが多いのですが、これは臓器のはたらきに対する認識の違いによります。今回は、中医学的に『肺』『脾』『腎』に関連して、浮腫に対して多く投与される処方の解説をしてみましょう。

―肺―
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう) ※出典:金匱要略(きんきようりゃく)
中医学的病名では風水に対する治療薬で、急性腎炎による浮腫に投与されます。構成薬である麻黄(まおう)は、肺気を体のすみずみまで行き渡らせる薬で、喘息等の治療薬ですが、ここでは利尿作用を発揮します。
防己黄耆湯(ぼういおうぎとう) ※出典:金匱要略
水太り体質の人の膝関節腫脹につかわれることが多いのですが、中心薬である黄耆は高用量で用いることでネフローゼの治療に役立てられています。
―脾―
五苓散(ごれいさん) ※出典:傷寒論(しょうかんろん)、金匱要略
傷寒論では「病邪(体にとって有害なもの)が膀胱に入り、膀胱が水を処理することができなくなり、余分な水分が貯まるのを治する」とされていますが、金匱要略では、めまいの治療、それ以外にも水頭症(正常圧)、胃腸疾患、陰嚢水腫など、幅広く用いられています。
日本でも小柴胡湯(しょうさいことう)との合法を柴苓湯(さいれいとう)と名付けて、ネフローゼに多用されておりましたし、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)との合法で下肢リンパ浮腫の治療の報告もあります。
―腎―
真武湯(しんぶとう) ※出典:傷寒論
少陰病(病邪が体の内部にまで入り込んだ状態)に対して用います。『腎』を暖め、陽気を助けることで利水します。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん) ※出典:済生方(さいせいほう)
『腎』の陰陽(特に陽気)不足を補うことでむくみをとります。足腰の弱り、耳鳴りなどにも効果があり、抗老化作用も有します。
中医の腎臓内科では『中西結合』が唱えられ、中国医学と西洋医学のコラボレーションが行われています。ネフローゼには、ステロイド、免疫抑制剤など西洋薬を使用しながら、再発抑制の目的で中薬が用いられます。中薬は上記に述べた古典由来の処方も使用されますが、最近の研究により清熱解毒剤、活血薬(血流改善の薬)が多く投与されています。
参考文献:いかに弁証論治するか、中医臨床 通巻100号/東洋学術出版社
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