(11)耳鳴り、難聴
中医学では、耳と『腎』とは密接な関係があると考えます。"『腎』は精を蔵し、髄を生み、脳に通じ、耳に開竅(かいきょう)する"といわれています。この言葉に従うように、性欲減退、脊髄の疾患には補腎治療を行います。特に脊髄疾患には動脈性補腎薬の含まれた海馬補腎丸(かいまほじんがん)等の投与や、豚の脊髄を食したりということが指導されることもあります。補腎薬である胡桃(くるみ)は同時に健脳食品であったりもします。そして耳鳴り、難聴の症状を考えるときにも、その人の『腎』のはたらきについて十分観察することになり、治療においては『腎』に効かせる薬が多くなっています。
もちろん他の臓器と関連がないわけではなく、例えば経絡をみたとき、耳たぶの前に耳門(じもん:三焦経)、聴宮(ちょうきゅう:小腸経)、聴会(ちょうえ:胆系)の穴位(けつい:ツボ)があり、針灸での治療の際などよく用いられています。
以下に中医学的な分類と症状、治療薬の紹介をしてみたいと思います。
1.腎精虚損(じんせいきょそん)
耳鳴りは夜にひどく、腰膝のだるさなどがあります。六味丸(ろくみがん)と柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)の合方が治療としては考えられます。
2.脾胃虚弱(ひいきょじゃく)
疲れると症状悪化し、食欲減退、下痢などがみられます。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)をベースにした処方がよいです。
3.肝胆火旺(かんたんかおう)
ストレスにより症状悪化し、耳痛、目が赤い、口が苦いなどの症状もみられます。治療は、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)などが考えられます。
4.痰火壅結(たんかようけつ)
痰が多い、頭重感、腹部膨満、口が苦いなどの症状があり、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)と抑肝散陳皮半夏(よくさんかちんぴはんげ)の合方、大柴胡湯(だいさいことう)などが選択されます。
5.瘀血内阻(おけつないそ)
外傷の既往、刺すような痛み、舌下静脈の怒張があります。通竅活血湯(つうきょうかっけつとう)が適応ですが、エキス剤では桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などを処方の中に組み込んでいく必要があります。
6.外邪侵襲(がいじゃしんしゅう)
かぜ症状に伴う場合で、銀翹散(ぎんぎょうさん)、小柴胡湯(しょうさいことう)、清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)と升麻葛根湯(しょうまかっこんとう)の合方などが用いられます。
中医学的分類を述べてみましたが、西洋医学的に脳外科、耳鼻科的検索を行い、腫瘍性病変などの除外をしておくことは大切なことです。実際の中医薬の処方に際しては、個々人においては分類が複雑に入り混じっており、他のさまざまな所見も参考にしながら処方を決定していくことになります。
参考文献:中医臨床/東洋学術出版社、'95,12月/通巻63号
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