漢方外来だより13

(10)便秘

 便秘はよくある症状の1つで、西洋薬には数系統の下剤があります。症状の程度、随伴症状によっては重篤な疾患がかくれている可能性が高くなり、検査が行われることもあるでしょう。中医学でも便秘に対して、体質・病態に合わせてさまざまな処方があり、便秘と関連した他の症状も改善させようとします。以下に代表的処方に対する考え方を紹介してみましょう。

漢方外来だより13

1)桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)※出典:傷寒論(しょうかんろん)

 感冒の治療薬、桂枝湯に芍薬の量が増えただけの簡単な処方です。桂枝の温める作用と、芍薬の陰液を守る作用のバランスで腹満、腹痛、便秘を治療します。

2)大建中湯(だいけんちゅうとう) ※出典:金匱要略(きんきようりゃく)

 腹部が非常に冷えて痛みがあり、腹部膨満した状態に用います。センナなどを長期に大量にのみ続けて腸がすっかり冷えてしまい、腸閉塞になった症例に対する報告が多数あります。

3)麻子仁丸(ましにんがん) ※出典:傷寒論

 腸の熱を去る:小承気湯(しょうじょうきとう、構成:大黄(だいおう)・枳実(きじつ)・厚朴(こうぼく))に腸を潤す作用のある杏仁(きょうにん)・芍薬(しゃくやく)・麻子仁が加わり、作用として少しマイルドになっています。麻子仁丸より、もっと腸の潤いを増す処方に潤腸湯(じゅんちょうとう)※出典:万病回春(まんびょうかいしゅん))があり、高齢者の便秘に対して非常に使用しやすいです。

4)桃核承気湯(とうかくじょうきとう) ※出典:傷寒論

 熱と血が下焦(ヘソから下の部分)に結集してしまった状態に用いるとされています。血が結集した状態は瘀血(おけつ)といい、下腹部(腸骨窩)に圧痛がみられたりします。

 この処方に適合する人は、便秘・腹痛の他、精神不安を訴えることが多いです。

5)大黄附子湯(だいおうぶしとう) ※出典:金匱要略

 大黄に暖める作用のある附子、細辛(さいしん)が配合された処方で、寒が腸に結集した便秘を治療すると考えます。

6)柷朮丸(きじゅつがん) ※出典:内外傷弁感論

 脾虚を治療する白朮と、腸の気を流す枳実の2味で構成された処方です。胃腸が弱いけれど、便秘になる場合に使用します。白朮は通常は下痢止めのはたらきをしますが、用量を多くすると逆に通便作用がみられます。

7)済川丸(さいせんがん)

 腎腸を補いながら通便作用のある肉蓯厭蓉(にくじゅよう)が含まれた処方です。(肉蓯厭蓉は保険収載されていません。)

 センナや大黄は下剤としてよく使われますが、長期間用いると胃腸を冷やし、そのはたらきを損い、水分も失われていく可能性があります。そのため、そのマイナス部分をカバーする薬が同時に配合された処方を選択したり、あるいは、体質、便秘の原因を考え直して、センナ、大黄を含まない処方の選択が必要になってくることもあります。

 参考文献:傷寒論解説、金匱要略講話/創元社
      方剤学/人民衛生出版社
      いかに弁証論治するか/東洋学術出版社

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