(6)疲労
大人の方で疲労を感じたことのない人は、まずいないでしょう。疲れるということは、日常的によくあることですが、その状態がいつまでも続くのであれば、やっかいなことです。しかし、器質的疾患がないにもかかわらず、疲労感が続くという人は、案外と多いのではないでしょうか?西洋医学的には慢性疲労症候群という病態が提唱されています。
一方、中医学的には疲労感を主訴とした病態の多くは、虚労病に分類されます。中医学の古典である“金匱要略(きんきようりゃく)”によると虚労とは、臓腑機能の衰退、気血陰陽不足による慢性の衰弱した状態ということです。この原因としては、先天性、過重労働、食事の不摂制、大病後、抗癌剤などの投与後などが挙げられます。
以下に金匱要略に記載されている処方を中心に、いくつか解説してみましょう。

★ 小建中湯(しょうけんちゅうとう)※出典:金匱要略
ひどい疲れで、体力がなくなり、動悸、鼻出血、腹痛、夢精、四肢の重だるさ、手足のほてり、口渇などがみられるときに用いられます。理論的には、体内の陰と陽がうまく混じり合わないときに、うまく混じり合わせる薬だと言われています。
便秘だけれども通常の下剤が使いにくい場合、パニック障害、子供の体力増強などに応用されています。
甘い薬ですので非常に飲みやすいです。
小建中湯を投与すべき状態より、もっと気力、体力が落ちている場合は、黄耆を加えた黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)、黄耆・当帰を加えた帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう)が用いられます。
★ 桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)※出典:金匱要略
性欲減退、めまい、脱毛、夢精、悪夢などの症状の人に用います。陰陽の調整をすることと共に、竜骨、牡蛎による固摂機能が加わります。固摂とは、身体の中の必要な水分を保持して流れ出すぎるのを防止する作用で、 例えば汗が出すぎる、下痢、出血などに対応します。「嫌な夢をみる」と言われた人に、この処方を投与すると悪夢をみなくなるようです。
★ 八味地黄丸(はちみじおうがん)※出典:金匱要略
疲れやすい、腰痛、足のむくみなどの症状に用います。腎陽を補う薬ですので、足から腰にかけて冷える症状にも効きます。腰部脊柱管狭窄症による足のしびれなどにも応用されています。
★ 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)※出典:弁惑論
気を補い、持ち上げる代表処方で、胃腸を守る作用があります。胃下垂、脱肛、はっきりした原因がなく、微熱が続く状態などにも使用されることがあります。
★ 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
★ 人参養栄湯(にんじんようえいとう)※出典:和剤局方
これらの処方は、気血不足を治療する方剤です。中国では、十全大補湯の生薬のセットがスーパーマーケットで販売されたりしていました。疲労回復のためのドリンク剤のようなものでしょう。漢方薬の中で世界的に一番の頻用処方は、十全大補湯と聞いています。また、これらの薬は、抗癌剤や放射線療法後、体力が低下した状態の人に投与されていることも多いです。
今回紹介した薬は、概ね補剤に分類され、補う作用のものが多いですが、体内に余分な物があるときにも疲労感を感じることがあるため、実際の投薬の際には、体の反応をみながら虚実に対応していく必要があります。
参考文献:金匱要略講話/創元社
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