(5)関節痛
多関節の痛みを主訴とする病態を中医学では痺症(ひしょう)といいます。中医学的な言葉で、もう少し詳しく言うと、痺症は四肢経絡が風寒湿熱邪(ふうかんしつねつじゃ)という身体の外部からの因子により閉塞し、気血が流れず、経絡がつまり、それにより筋肉・関節・筋骨に痛み、しびれ、麻痺、重い感じ、熱感、関節可動域の低下、関節の変形をきたす疾患ということです。西洋医学的な病名としては、関節リウマチ、坐骨神経痛、五十肩、変形性膝関節症、頚肩腕症候群などが相当します。
以下中医学的に大まかに5つのタイプに分けて、1つ1つ解説してみましょう。

1.風痺:ふうひ(行痺)
風痺を発症させる主因は風邪(ふうじゃ)であり、二次的な原因は寒湿です。痛みの部位は変化します。病邪が体内深部にまで侵入していないため、病気としては初期の段階に属するものが多いです。
2.寒痺:かんぴ(痛痺)
寒痺の主因は寒邪(かんじゃ)であり、特徴は疼痛が強いことです。暖めると症状が緩和されます。局部的には炎症所見があっても、体全体的にみて寒の症状(冷え、寒がり等)が強ければ、暖める作用の強い附子(ぶし)が入った方剤が選択されます。附子は寒によって引き起こされた痛みの症状を取り去るのにとても役に立ちます。
3.湿痺:しっぴ(着痺)
湿痺の主因は湿邪(しつじゃ)であり、その特徴はしつこく定着することです。関節は腫れて重い感じがします。そのため痛みの部位は固定しており、薏苡仁(よくいにん:ハトムギ)など湿を取り去る薬の入った処方が適応です。
4.熱痺:ねっぴ
熱痺は熱邪(ねつじゃ)の侵入あるいは風寒湿邪侵入後、体質により熱に変化した場合に起こります。関節、筋肉が赤く腫れ、熱感を持ち、全身的にも発熱、口渇がみられることがあります。石膏(せっこう)、知母(ちも)などの清熱剤が入った処方を投与します。
場合によっては、寒熱入り混じった状態になり、桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう)が処方されます。
5.頑痺:がんぴ(久痺、骨痺)
長期化して、関節の変形まで生じた状態です。気血不足のみられる場合には大防風湯(だいぼうふうとう)、肝腎が虚した場合には独活寄生湯(どっかつきせいとう)が処方されます。
上記以外にも湿、痰、気滞、血瘀、寒を同時に治療する五積散(ごしゃくさん)、血液の流れを改善し経絡を通じさせる目的の疎経活血湯(そけいかっけつとう)などさまざまな方剤が存在します。やはり邪気の種類、侵入の具合、その人の体質を考慮し、病態にあった処方を選択することが、治療効果を高めることにつながります。
参考文献:いかに弁証論治するか(東洋学術出版社)
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