漢方外来だより5

(2) 下   痢

 最近、ノロウイルスによる嘔吐下痢症がよく取り上げられています。この冬は猛威をふるっていて感染を防ぐためには注意が必要です。下痢を起こす原因は他にもいくつか挙げられますが、今回は下痢の症状について中医学的なタイプ別に分類して、その際の治療法等をお話ししたいと思います。

漢方外来だより5
  1. 感染
    ウイルス感染により、嘔吐下痢症を引き起こすことがあります。このような時には藿香正気散(かっこうしょうきさん)という薬が使われます。ただこれは現状の医療保険では扱われていないため、代わりとして五苓散(ごれいさん)などが処方されていることもあります。効果には差があると思いますので藿香正気散が保険収載される日がくることを期待しています。

    細菌感染、食中毒により、ウイルス感染より症状の重篤な状態(粘血便、高熱、強い腹痛)では、抗生剤の投与等西洋医学的アプローチが必要になってきます。昔、抗菌剤のなかった時代には例えば葛根黄芩黄連湯(かっこんおうごんおうれんとう)など清熱解毒剤の含まれた処方を多く使ってきたのだと思います。

  2. 食べすぎ
    中医学では、暴飲暴食が続いて胃腸機能をくずした状態を食積といいます。そういう場合は、保和丸(ほわがん)が代表処方です。保和丸(ほわがん)の中には山楂子(さんざし:バラ科植物サンザシの果実)、萊菔子(らいふくし:大根の種子)等、消導薬に分類される生薬が入っています。消導薬は、食物の消化を促進します。
  3. ストレス
    精神的ストレスによっても下痢を引き起こします。こういった場合には、痛瀉要方(つうしゃようほう:構成生薬は白朮、白芍薬、陳皮、防風と4味で少なめです。) という処方が効果があります。煎じ薬での処方になりますが、エキス剤がよい場合には加味逍遙散(かみしょうようさん)が作用としては比較的近いです。
  4. 胃腸虚弱
    元来、胃腸の弱い方もおられます。そういった方は六君子湯(りっくんしとう)、啓脾湯(けいひとう)をのむと、体全体に元気が出てくると思います。
  5. 冷え
    明け方、下痢がみられるタイプがあります。それは中医学では腎の暖める力の低下によると考えます。そのような場合には四逆湯(しぎゃくとう:四逆散とは別の処方です。) 、真武湯(しんぶとう) などにより体を暖めることが必要です。
    上記のように大まかに分類しましたが、現実には複数の原因がからんでいることが多くあり、また当然、体質や環境を考慮し薬を処方することになります。そのため、方剤を組み合わせたり、あるいは加減をしたりということが必要になってきます。

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