漢方外来だより4

(1)咳漱

 漢方治療をする際、困っている症状(例えば咳)以外の症状の治療をすることがあります。そう言われれば不思議な感じがする方が多いでしょう。咳嗽は肺に問題があるときに生ずるのは当然ですが、呼吸状態は肺のみに影響されるのではなく、それ以外の臓器とも関連があります。今回は中医学における肺とその他の臓器(脾、腎、肝、心)とが関連した病的状態について述べてみたいと思います。

漢方外来だより4

 まず第1は肺と脾です。中医学で脾は胃腸機能、消化能力のことであり、西洋医学の脾臓というより膵臓に近い臓器です。"脾は運化を主る、気血生化の源"といいます。呼吸器疾患が慢性化している方の中には、食欲減退がみられる人がいます。そういった人は肺脾気虚といい消化機能をアップさせることから肺の機能を高める必要があります。処方の中に六君子湯など胃腸の薬が含まれるようになります。呼吸器の病気なのに胃腸薬が・・・と少し不思議に思われるかもしれませんね。

 呼吸活動は肺と腎により調節されます。"腎は納気を主る"といい呼気、深呼吸は腎の機能によると考えます。これは中医学に特異的な考え方です。慢性呼吸器疾患の方で同時に浮腫、排尿障害、夜間尿、腰痛、難聴がみられる人は、肺と腎の機能がどちらも低下している状態といえます。このような際には、呼吸機能を高めるために補腎作用のある薬も使用する必要があります。

 "肝は疏泄を主る"といい、全身の気の流れをスムーズにするはたらきを担います。ストレスにより肝は影響を受け、気が上逆して肺の呼吸状態に影響を及ぼします。このような状態を肝火犯肺といいます。喘息の際によく使われてきた柴朴湯小柴胡湯半夏厚朴湯の合方ですが、小柴胡湯の疏肝作用を利用したものともいえるでしょう。

 心と肺は相互に協調して気血の運行を促します。心気の不足と脾気の不足は相互に影響しあい、進行すると呼吸器と循環器活動の両機能を低下させる心肺気虚となります。

 中医学最古の古典である黄帝内経には"五臓六腑,全て咳を生じる。肺のみに非ず"という下(くだ)りがあります。咳をしている人を診たときには、肺がどういう状態にあるのかを分析しないといけませんが、それ以外の臓器との関連性もみながら治療していく必要があります。中医学の考え方には西洋医学の考えで育ってきた私達にとって理解しにくいことも多く含まれています。

参考文献:「やさしい中医学入門」東洋学術出版社

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